感覚過敏…或は鈍麻。(その3)

 

いつの間にか、買い物袋を両手に提げた中年のふくよかな婦人が立っていた。爺ぃが歩道を塞いでいたかと、慌て脇に寄る。

婦人は子供の母親に向かって、 ほぉらご覧、その子は嘘つきなんかじゃない。あんたがあの綺麗なのを見分けられないだけなんだよ!私まで嘘つき呼ばわりして…

ふと、此方に向き直り、有り難うございます。あの7色の雲が見えるっていうのは、嘘だって言うんです。何時もあの子を怒鳴り散らして…腹が立って嘘じゃないって言っても、私まで嘘つきだって…

婦人は買い物袋を持ち直した、重そうだ。重いにもかかわらず、わざわざ足を止めて子供を庇ったのか。

 

母親は鬼女の面のまま、子供に 帰って来るな、家に入れてなんかやらない! と怒鳴り、鞄の中から子供の荷物を地面に叩きつけて、去っていく。只、呆然と立ち竦んだ爺ぃに、婦人は呆れ顔と溜め息を見せて、子供を振り返った。

あの子のお祖父さんは、私の近所なんで送ります。〇〇ちゃん、おばさんのうちにおいで…あ、それを持ってきて…洗濯しようね! と路上の荷物を目でさす。

 

知らない土地なので、婦人に黙って頭をさげた。あの母親は、色覚が鈍麻だったのかもしれぬ。