不思議な雲だった。
18時を少し過ぎていた。街なかの公園のベンチで、北西の空を何の気なしに見上げる。何かが視野に滑り込んだ気がしたので…
上空はかなり風が強い様子で、雲が形を変えながら流れている。高度の異なる雲に、西の空は小さな隙間を残しつつ埋め尽くされた。
一面にべったりという雲ではなく、てんでに自分の高さで風に身を任せている。
白や淡いグレーの雲の間から、黒い帯状の雲がのぞいているのに眼を惹かれた…視野に滑り込んだのはこれだろう。
大半の雲が流れる方向に逆らって、スルスルと移動してるように見えるのは、相対的な錯覚なのか…
帯状の黒い雲は、むしろ白い雲に身体を隠しきったつもりだが、うっかり腹が見えている黒い龍…という想像に誘われた。
動きはひどく滑らかだが、その雲には鱗っぽさがあり、そのザラザな触感さえ、視覚から感じられる。
そういえば、昼間に池でかなり大きな黒い鯉が、悠々と泳いでいるのに遭遇した。
まるで、あの鯉が今空に上ったか…と思うような、ゆったりした動きだった。
いつの間にか、黒い帯はほどけて細くなりゆっくりと、やがて消えていった。ほう…多分、あの池に戻っていったものとみえるな。