女の子とワンコ

 
随分と昔の話ということだけど、毎日のように自分のおやつを袋だかポッケに入れて、
ある他所のおうちのワンコの所に、やって来る女の子がいた。

昔は戸締まりや、門はあっても門扉なしが多かったし、ワンコも番犬としてお外にいた。

そのワンコと仲良しの女の子…誰も咎めることもない。
多分、普通のありふれた雑種だったのではないか。


事件があった。
NEWSの詳しい部分は欠落しまっているけれど、
女の子が大型犬に襲われた。
そのワンコは、自分がズタズタに咬まれながらも、その子を護りきって、命を落とした。


その頃は(昔だから)今以上に、「恩」「忠」という言葉で話題になり、「忠犬」といった評価をされた。

そんなの、このワンコの気持ちを全然映してないよ。

ワンコはね、その子が大好きなんだ。
おうちの子じゃないのに、毎日のように来てくれて、
おやつをわけてくれて、話しかけてくれる。

きっと、食べたことのないおやつの時は、「これ、食べられるかな?」
少しだけ摘まみ出して、そっと目の前に差し出したはずだ。

ワンコの分全部をエサの食器にバサッと入れてくれるのより、
少しずつ一緒に食べてくれるほうが、ワンコだって嬉しかったと思う。
「うふふ、美味しいねぇ」女の子の笑顔に、
ワンコは声には出さないで、応えたはずだ。

そうやって食べたら、それはエサじゃない。
女の子のおやつを分けあって…それは、お友達だよね?

そう、ワンコにとっては、その女の子は大好きな大好きな、お友達だった。


勿論、犬としての闘争本能もあるだろう。
でも、ワンコは全力で女の子を護りたかった。
忠でもなく、恩でもなく、誇りとして、愛として。

だって、大好きな大好きな、お友達だったから。
理由はそれで十分だよね。


わたしは、今でもこの話をする時、涙と洟でぐしゃぐしゃになってしまう。

みんなに呆れられるので、もう話さない事にした。
でも、ワンコとだってお友達になれるんだよ!本当になれるんだよ!、
と、ここに記しておく。