袖すり合った、童がふたり。

 
どういうわけだか、ちょっと不思議な気がするコンタクトがあった。
行きずりに過ぎない、5分にも満たない縁だったけれど・・・


雨が降ってた時間に、歩道ですれ違った子がいた。
お母さんが男ものと思われる大きな傘を差して、赤ちゃんを背負っている。
そして、手を引かれてる女の子は、幼稚園くらいかな、自分で傘を差してる。
すれ違うにはちょっと苦しいので、まるるんは反対側の左に、ひょいと自分の傘を傾げた。

そしたら、女の子が「ん??」という顔で、まるるんの真似をして、自分の左側に傘を傾げた。
傾げてから、じ~っとみつめて。「これでいい??」と問うているような。
まるるんは、笑顔でうんうんと頷いてみせた。
女の子もうれしそうな顔をしたところで、私とお母さんが、右肩ですれ違った。

まるるんが傾げ傘をおぼえたのは、子供のときだった。
雨の日に、全然しらないおねえさんだったけど、狭い道で他の人とすれ違ったとき、
「スイ」っと傘を傾げてすり抜けたすがたが、子供心にものすご~くカッコよく映ったからなの。
思いやりとか、エチケットとか、そんなんじゃなくて・・・
とにかく、ほれぼれするような仕草だったんだよね。

あの子が、始めは真似から入っても、傾げ傘おぼえてくれたら、うれしいな。



晴れ間がのぞいた時に、歩道の広い道で、まるるんを自転車で追い抜いていった、ピンクづくめの女の子がいた。
補助車輪のついたピンクの自転車に、ピンクのお洋服、ピンクの四角いリュック。
そのリュックに紐でぶら下がってる、リラックマのポーチがピンクじゃないだけ。

だけど、そのポーチがゆれて、車輪に触りそうになる。巻き込んじゃったらあぶないよね。
おまけに、リュックのファスナーが大きくあいてる。なにか落っことしちゃったら・・・

横断歩道で追いついたので、声をかけた。
「くまさんのポーチ、車輪にからまるとあぶないから、しまったほうがいいよ。」
女の子は、目をまんまるくして、でもうんうんと頷いて背負ったまま体をひねってしまい始めた。
目を真ん丸くした理由は分かる。その時まるるんのかけた声は、いつもと全然違う低い声だった。
なんであんな声がでたのか、自分で聞く限り、まるで男の人のような声だった。

青信号で先に渡ったまるるんを、ピンクの女の子の自転車がもう一度追い抜いていった。
大丈夫。くまさんポーチはリュックのなか、リュックのくちは、しっかり閉まってる。

女の子は、見る見る遠くなって、角を曲がって消えた。

そのあとに、まるるんののどから出た声は、いつもの高さの声だったんだよ。