とおかんやの、わらでっぽう…(その3)

 

その頃には雨も止んで、西の低い(=遠い)空は、雲がなくなって来た。上空西の雲が、先をゆく雲は速く流れ、後をゆく雲は高さが違うのか、少し南西に流れる。

雲のない黒い闇の空に、やがて静々と十日夜の月がくっきりと、明るく現れた。

あぁ、ありがとう!爺ぃは呟かずにはいられなかった。明るく光る十日夜の月…これに巡り合わせるために、世間でいう偶然がどれだけ重なったか…

 

そんな偶然を有り難がるなんて、と嘲笑いたい輩は笑っていればいい。

ありがとうございます。爺ぃは、この十日夜の月の光を、しっかりと頂きました。広い歩道の端に寄って、暫くその光を心底楽しんだ。

 

不意に、唄が甦る。

とおかんや、とおかんや、とおかんやの、わらでっぽう

童たちが荒縄を手に、地面に打ち付ける。その時に、節をつけて囃し立てるのだ。

 

あぁ、とおかんや という音で聴いては、それが何のことかわからない。だが、それは囃し立てる童の声と節回しで、爺ぃの記憶に残り続けてきたのか。

今まで、その童を眺めている自分…映像かも知れない…だったが、不意にわらでっぽう(藁鉄砲?)を一緒に打ち付ける自分になる。生まれ替わってきた記憶か…