満天の星空だったよ…(エピローグ)

 
根元からひっくり返っているのはポプラが多いが、
大風に捻り切られたように、幹の途中で折れた樹は、痛々しすぎる。

三本に二本は、倒木も無理ないと思えるほど、(少なくとも)折れた部分が虚(うろ)になっている。

そう、先週まで涼しい木陰を与えてくれ、
或いはある季節には花を、実を、楽しませてくれた樹である。


きっと、ここにまるるんの奴がいたら…泣くよなぁ…と苦笑する。
ありがとうね、楽しませてくれて、ありがとう。
幹に手を当てて、ポフポフ叩く。
涙をじんわりならいいが、人目を憚らず、ポロポロ泣かれても、困るんだよなぁ。


日没になっても、街灯が点灯しないし、信号も、あらゆる灯りが黙りこくっている。
商店や自販機の灯りも、ない。

交通量の多い道は、車や自転車のライトが、道を照らしてはいる。

そうか、もうすぐ新月だったな…
くっきり見えている火星に目をやって、目を右に滑らせて木星を見てから、
少し高い位置にある星を見つけ、あれが水星か?と見当をつける。

そして、空全体を眺めて息をのむ。
満天の星だった。

この街で、全ての灯りが落ちた夜に、一生に一度の体験かもしれない。