常田富士男さん

 
常田さんといえば、まんが日本昔話の語りを思い出す人が多い。

本放送の時代のファンは、もう中高年。
繰り返し、あの時間枠のまま、過去に流した話もオンエアされ続けた。

やがてビデオや、DVDになって、いまなお代替わりした子供たちを楽しませることができている。


でも、俳優としての忘れられないワンシーンがある。

尾上菊之助(現菊五郎)が演じた大河ドラマで、
義経の馬丁、喜三太を演じている。
総集編がDVDで発売されていた。(もう、絶版か)

衣川の館で喜三太も闘う。
弁慶以下の猛者ほどには戦力にはなれないが、
彼は、いつでも義経のために馬を曳き出せるよう、たった一人で厩を衛るのだ。

ズタズタに傷を負った喜三太は、最後にやっとのことで馬の綱を解き、
そして、絞り出すように呟く。

行け…ぃ…!

馬は、喜三太の最後の指示に、従順に静かに蹄の音と共に、厩を離れて行く。

それを桶に倒れかかったまま、多分既に霞始めた視野に納めて、
喜三太は笑みを浮かべて、息絶える。

ちょっと悪戯っぽい、愉快そうな笑みが忘れられない。

猛者たちとはまた違う、胸に染みる最期だった。


合掌。