あぁ、そういえば…海うそ を読みながら次々と思い出したこと。

 
お茶のこと

主人公の秋野が、訪れた先で自家栽培の茶を出され、
そのさりげなく、けれど素晴らしい風味に感嘆する。

ふっと重なったのは、冬虫夏草 で、征四郎が鈴鹿に向かう道中に立ち寄った先で、やはり土地の茶をふるまわれる。

勿論それぞれが、茶の栽培に適した土地で、
丹精こめて栽培され、揉み上げられた農産物ではある。

けれど、いい意味での誇りを背景に、心を込めて客人のために入れた一煎の茶の、
深くありながら、決して重くない味わいは、文字通りのもてなし…

いや、征四郎に出された茶は、そんな大層な思い入れはなかったかもしれない。
でも、それを煎れてくれた老女も、
ここのお茶はそれはそれは美味しいんだよ、さぁさぁ、どうぞ上がって下さいよ、
そう自信を持っていただろう。

同じく、冬虫夏草 で確か毘沙門天さんの祭り、
境内でのお接待に、隣のおかみさんを含めた女性たちが、
自宅の生け垣のなかに、数株植え込んである茶の木から、
それぞれ摘み取り、丹精した茶葉の茶が、参詣者に振る舞われる。

それは、商品の茶とは比較できないが、
はるばる石段を上がってきた人々には、何よりのもてなし。