中田久美さん

 
私達がその姿を、テレビで視た時、彼女はまだ少女だった。

その遥か前、東京オリンピックで日本女子バレーは「東洋の魔女」と絶賛されたけれど、
私から見た彼女は、まさしく魔法使いのように、自在にボールを扱うことのできるセッターだった。


コートの中にいた彼女は、全ての攻撃を支えてたつ、小さな巨人だった。
彼女にトスをあげて貰ったアタッカーの一人が、かつてこう述懐していた。
「中田さんのあげてくれたボールは、いつも私が跳ぼうとする位置に上からまっすぐにおちてくるんです」と。

考えたら、これは凄いことだ。
バレーコート上の三次元座標で、アタッカーがボールを撃とうとする位置でXとY座標方向の加速度がほぼ0、
アタッカーが思う通りの角度と回転をかけさせたいとすれば、
その、XY座標上のZ座標の一点の空間に、まるで今そっとボールを置いて、それがボールだけの重さを落下加速度として、落ちてくる。


これを必要な場面で、毎回正確に再現していたことになる。
これがマジシャンでなくて、なんといえばいいのだろう。


そういえば、もう亡くなって久しいが、日本男子バレーにも猫田さんという名セッターがいた。


名セッター。
安心して、全てを委ねられるひと。
そして、淡々とそれに応え、期待を裏切られることのない、チームメイト…


ああ、本当に求められる人材だね。