相合い日傘のご夫婦…

 
お盆に入った日の昼前、強い日射しのなかを歩いていたら、
男物(?)の大きな日傘に、相合い傘で納まっている、
お歳を召したご夫婦が、向こうからゆっくり歩いてきた。

言葉少なく、でも穏やかに会話を交わしているようすだった。
お花を持って、お墓参りにいくんだなぁ…、きっと。


ご主人は、左手に白い紙で被った花束を持って、右手で傘をさしている。

ただ、奥さんが日射しに完全武装(つばの広い帽子、アームカバー…)の出で立ちなので、
相合い傘がちょっとチグハグに見える気はした。

まぁ、男物でかなり大きな傘だし、小柄なご主人だし、
余裕で傘のしたに納まっている。



随分近づいて、ご主人の花束を持った右手が、不自然に泳いだのを見て、アッと気がついた。

奥さんが、仲睦まじ気にご主人の左腕に添えていたように見えた右腕は、
少し脚のご不自由なご主人を、しっかりと支えていたのだった。


多分、あの大きな傘は、丁寧に巻き上げられて、
昔のイギリス紳士みたいに、いつもはステッキ代わりに使っているのだろう。

けれど、あまりの強烈な日射しに本来の日傘として使うと、
今度は奥さんが、ステッキ代わりになって、一緒に歩いているのだろう。


支えてもらったのが一寸、照れ臭かったのか、
ご主人は何か冗談めかしたセリフを口にしたようで、
あら、いやだわ…と奥さんが明るい声で笑った。


そのまま、すれ違うことはなく、
相合い傘は、露路に吸い込まれていった。