朔日、神社で栗鼠に会った…(続き)

時々小鳥の囀りが流れるなかで、暫くベンチでうとうとした。

横になっているわけではないのだが、ごく薄いフワフワの真綿(絹)をうっすら羽織っているような、無上の心地良さだった。思わず、ここもパワースポットか?と呟いてしまう。

ふっと吾に返る。ご婦人が小腹を満たした菓子袋を、パリパリと小さく畳んでベンチを後にするところだった。また静けさが戻ると、微かにシャッター音が聴こえてきたので、辺りを見回す。

栗鼠が餌を放り込んでいる洞の方を振り向くと、チビ栗鼠たちが走り廻っていた。

何人かが遠巻きに、色々な方向から取り巻いていた。ある人はずっとチャンスを窺い、ある人はすぐにいい案配に撮れたか、数回シャッターをきって立ち去った。

栗鼠は多分、いったん地面に埋めた餌を回収して、小腹を満たしたり洞に運んでいるはずだ。

荷物をまとめて、足音を忍ばせて、スポットを降りてそぉっと近づいてみる。撮影したい人たちがいる以上は、栗鼠を驚かせてはいけないし、実はこうして近づくと先方も警戒心を解くことが多い。

走り廻っている栗鼠を、優しい気持ちで眺めては、一歩近づくのを繰り返す。

案の定、元気のいいチビがツイと立ち上がって此方を向いた。白い腹の部分がまるでエプロンのようだ、といつも思う。

タタタっと走ってきて立ち上がり、え?何か貰えるの?と見つめてくる。ここで何か差し出せば、受け取ってくれるが、野生の栗鼠に食べさせていいものは、持ち合わせていない。そもそも人間が食べるものを軽率に与えるのは、殺人ならぬ殺栗鼠行為と言える。

それでも、というのなら、殻付の胡桃やドングリならば、その可愛い手に渡してやるのも許されるか…

餌はないの?なぁんだ…んじゃ、ちょっと失礼します~と、脇をすり抜け(呆れる程の至近距離)、スポットに登って行って、ご婦人方の座っていたベンチの辺りを、軽く掘り返しては何か口に放り込んでいる。

また静かに近づいて、姿勢を低くすると先方も走り寄ってきた。決して身体に触れてこないと解っているのか、先方から指先に触れてきそうな距離で、此方を見上げている。

地面に墜ちている紅いコリンゴを指差しても、見向きもしない。酸味の強いものは、嫌いらしかった。一頻りベンチの界隈をチェックすると、洞の方に駈け降りる。

帰り際に、辛抱づよく撮影していた男性が声をかけてきた。

ずいぶん栗鼠に近づけてましたね‼と。黙って微笑といっしょに頷いた。案外、栗鼠はあのシャッター音が嫌いなのかも知れない…