満月に重なった少女の姿。

十五夜の月が、スルスルと低いバスターミナルビルの上に、昇ってきた。

ビルの屋上の看板の強い灯りにも、負けない明るさで輝いている。

まだ位置が低いが、どんどん黄色さを捨てて昇っている。帰宅する頃には、晧々と輝く光で月光浴しながら歩けそうだ。

エリザベス女王が亡くなった。

王女としてのお立場には、勿論少女の頃からご自覚もお持ちだったはず。

けれど国の王としてのお立場には、突然ご不自由が増えてしまったのではないか。

今上陛下がイギリス留学中に、女王を訪ねた時の動画(ニュース?)を見かけた。

当時の陛下はニコニコと女王の案内をうけながら、時々驚いたように目を見張り、その時の表情に「うわぁぁ」と少年の輝きを見てとれた。

そう言えば、出口保夫氏の本だったと思うが、女王の極プライベートな『午後のお茶』に、大学院生だった陛下は招かれた。あるいは、陛下だけのためだったかも知れない。

盛大なお茶会とは違った、まるで親戚の少年を午後のお茶に招待したような、暖かく心のこもったもてなしを、陛下は思い出されているだろう。

話題になりそうな一品と、あとは女王の日常の品々、タイミングよくサーブされ、話は弾んだろう。それこそが至上のもてなしだ。

この時は、女王自らがカップを洗うまで片付けていた。という行があり、はて?一体誰が確認したのだろうと、不思議に思ったのだが…

本当に大切にしているとっておきのカップを出したのか。あるいは本当に身内に対するように日常を見せて、陛下をもてなして下さったのだろうか。

コロナ禍で、女王からの「是非いらっしゃい」という招待は叶わなかった。

ただ、陛下の心の中に『女王陛下の午後のお茶』がいつまでも輝いていて欲しい、と思っている。

明るい満月の光の中に、ふと女王の少女の頃の姿を思った。

合掌。