神田沙也加の訃報

 

札幌公演、彼女の初日はチケットが完売だった、と聞いていた。

何故?と問うても、分かろう筈もない。

 

まるでオンスケジュール…北国の都市を隙間なく、真っ白に包み込んだ雪…

窓のそとには、雪の女王の美しい腕が、彼女に差し伸べられていたのか…

差し伸べられた腕は、女王のちょっとした戯れだったのか、それとも彼女を救うためだったのか、或いは彼女への懇願だったのか…

その腕に向かって彼女は腕を伸ばし、そして翔んだ。

 

不意に、岡江久美子の訃報を聞いた時のことが甦る。連れ去られたのだ、と。悪魔にではない。

肉体を持った状態では、かなわぬ活動をする者として、彼女は選ばれてしまった。勿論、家族や友人たちを思い、彼女は懸命に抵抗したはずだ。

だが、彼女は押しきられた…そのスケールの大きな活動は、多分地球規模、宇宙規模で、彼女への懇願もとてつもなく大きかったのだ。

 

梨木香歩の 家守綺譚 でも、主人公の想い人ダアリャの隣人、幼なじみの佐保が連れ去られた…

花嫁衣装で小舟に乗った佐保は、魚の化身に付き添われ去っていく。見送る二人…悲しまないで下さい、彼女は春の女神となって戻ってくるのだから…と。