中村吉右衛門の訃報(続き)

 

現在の松本幸四郎が、祖父、叔父から 鬼平犯科帳 を引き継いでいる。

今回の訃報の談話のなかで、爺ぃがそうだろう、うんうんと頷いたのは…

穏やかな顔で横たわった叔父の姿に、初めて涙が零れ落ちた…祖父(白鴎)にそっくりな顔だった、と。

本当に歳を重ねる程に、実父の面影が増してきた。歌舞伎に直接接点を持ち難い爺ぃたちには、どんどん 鬼平 になっていった…そう、悪は赦さず を毅然と貫く本当に痛快な、それでいて真の優しさに溢れた鬼平だ。

 

もう一つ、八十歳で勧進帳の弁慶をつとめるのを目標としていた。実現していても、やはりその場を舞台に観には行けないだろう爺ぃだが…

皆が、それが実現出来なかったことを残念がっている。爺ぃも残念だ…が、ふと思い浮かぶのは、残念がっている吉右衛門の姿ではない。

あのテレビ時代劇の弁慶の姿で、いやぁ、申し訳ない!この通り!と拝み謝りまわっている姿なのだ。いや、坊主なのだから、拝み謝る姿は堂に入っているのだが…

真摯に済まながり、心底詫びている…が、不思議に無念さや悔しさといった自身から湧きあがる、負の感情が溢れて出ていない。

爺ぃの目に投影されていた、あれは一体…